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古書赤いドリル 解題

     
 

 

古書赤いドリルをはじめよう、という冒頭のハナの出発点はひとつに定めにくいですが、

坂口弘「あさま山荘1972 下巻」のこんな一節、

「四時五二分、もの凄い数の催涙ガス弾が撃ち込まれ、呼吸が全く出来なくなった。やむなく私は、北側端の上段ベッドか ら素手で窓ガラスをぶち割った。そして、破れた所から顔を突き出して外気を吸い込んだ。空気がこんなにも尊いものであったかと強烈に知らされた。ふとここ で飛び降りてしまえば、すべての苦しみは終わるな、と思った。が、すぐ、いやこれは敗北的な考えだ、許されないことだ、と思って強く否定した。前方を見た ら、浅間山が正面に聳えていた。円錐を途中で水平に切り取った感じの雄大な山で、噴煙を上げていた。山荘侵入後一〇日目にして、初めて見る浅間山の山容 だった。そうか、だからあさま山荘と呼ぶんだな、とその時、ようやく得心した次第だった。」

浅間山の麓に篭城しながら、その美しさに気づく余裕もなく、ここまで追い詰められた25歳の若者の青春を想像し、その 後38年拘束されて63歳になろうかという男が最後に見た自然らしい風景が催涙ガスに煙る浅間山だったことに思いを馳せたとき、ぼくの連合赤軍関連本や資 料収集の日々ははじまりました。それまでも寺山や唐十郎、アラーキーなどなど目当てに古本屋に通っていたわけですが、「連合赤軍事件」を通して、ぼくは古 本屋と出会いなおし、1960年代や70年代と出会いなおし、さらに言えば「本」そのものと出会い直し、細かいことは端折りますが、いつか「連合赤軍事件 で目録を作ろう」とライフワークをさだめつつ、古書店開業を発心するに至りました。

古書赤いドリルは、その棚を眺めれば結局ぼくは見ることがかなわなかった昭和の風景たちを、その風景の中で息づくひと びとを感じられるような、戦後の昭和史を散歩するような、そんな店でありたいと願っております。近い未来、確実に、決定的に失われるであろう「昭和」の景 色は、本のなかでしかもはや出会えない、そんな本たちの出番をつくる仕事をさせて頂きたいと思っています。

   
 
    「古書赤いドリル」は店舗とWEB SHOPでの古書の販売を行っております。

下北沢の店舗では本棚の片隅に小さなバーカウンターがあります。
軽く一杯やれますので、お気軽にお立ち寄り下さい。

   
 
 
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